「伊豆大島文学・紀行集」の編集にあたり 藤井工房 藤井虎雄
私は昭和初期に島娘(あんこ)姿を作品にしたり大島で島人にあんこ人形彫刻を指導した若き彫刻家に興味を持ち20数年調査をしてきました。国会図書館や美術館などに出向き彫刻家の資料を探して見ると、大正期から戦前くらいまでの美術雑誌には「多くの画家たちが描いた大島作品」が紹介されていました。「大島紀行・見聞記」なども掲載されていました。
それからは彫刻家の資料に加えて「画家の大島作品」もデーターとして集めてきました。
今回の文学・紀行集の資料提供と資料編集を一緒にしている時得孝良氏(元大島町文化財保護審議会委員)は私が図書館通いを始める20数年も前、今からざっと50年前から文人墨客の資料の掘り起こしをライフワークとされてきました。知り合う機会を得て合流してからは私も文人作品調査に加わり今に至っています。
近年相次いで永眠された大島の郷土史家たちの蔵書を見せていただく機会がありましたが、どの方の書架にも同じような大島を扱った本が並べられていました、島の貴重な財産だと思われて研究されてきたに違いありません。
また、昭和初期の「島の新聞」にも大島研究資料や大島図書館などの見出しで「大島を紹介する文献や文芸」を精力的に載せていました。
こうした島の先人達から忘れ去られることなく現代まで受け継がれてきた文人墨客の資料と新しい発見をひとつにまとめ、出版したいから手伝ってほしいと大島町から頼まれて編集に携わっています。今春ようやく第1巻詩歌編が発刊されました、140人近い文人の作品が収録されています。これから「小説編」「随筆・紀行記編」「画家編」と継続して発行される予定です。
このような貴重な資料がシリーズで大島町から出版されることは嬉しいことです。後世に対しても約100年あまりの資料引継ぎが確実にでき、ひとつの区切りになろうかと思います。
第2巻小説編には、藤森成吉や三島由紀夫、林芙美子、石川達三、吉行淳之介、笹沢佐保や大島ゆかりの青山光二など文人21名の大島作品が収録される予定です。長編も含まれるので700ページを越すものと予想されます。
第3巻は80数名の紀行記が掲載される予定です、誌面の都合により「大島の生活と暮らし」に係る著述を優先して載せたいと考えています。
大島を描き残した画家は伊東深水・棟方志功・東郷青児など170名もおり、出来るだけ絵画作品はカラーで掲載できればと思っています。画家の紀行記や「大島へ行って絵が変わった」というエピソードなども掲載する予定です。
島の先輩方から引継がれてきたこれらの宝物をどう生かすことができるか、多くの人の思いがあれば作品はより輝くことになるのだろうと思います。大島町では新図書館や郷土資料館の建設計画などが進んでいるようです、もし郷土の資料室のような場所がどこかに確保されるのであれば、作品集に収録された芸術家の資料や都合で収録できなかった作品資料を望まれれば提供しようと思っています。また、大島町でも教育や観光の関係者が積極的に「大島を書いた(描いた)芸術家」のことを広め伝えてもらえることを願いつつこれからも編集を続けて行きます。
一緒に編集委員をしている時得氏は、大島を訪れた文人墨客の作品収集と島での足跡を調べあげて独自の「大島文学散策」として発表してきました。大島町の冊子発刊を契機に50年分の切り口の異なる文学散策資料を再編集して自費出版しようとされています。
伊豆大島文学・紀行集4巻組と文学散策が揃えば「文人墨客の足跡」が鮮明になり伊豆大島がどういう島なのか、これからどう進んでゆくべきか、膨大な作品群を生かす道はあるのか、などいろいろあぶりだされることが期待できます。
伊豆大島と縁の深い島々や在京の方々にもぜひ興味を持って読んでいただければ幸いです。
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