農民美術の世界
 
 
大島では古くから炭を焼いたり、工芸用の樹木や燃料として三原山の裾野から切り出し東京方面へと出荷していました。大正期には簡単な木工品が島で作られていました。
 昭和4年、彫刻家木村五郎を講師に迎えて「農民美術講習会」がおこなわれて18名の島人に「あんこ人形」木彫技術が伝授されました。大島が観光地として脚光を浴びはじめた頃で、来島記念の土産として「あんこ木彫人形」が盛んに作られるようになりました。島人は組合を作って彫刻技術の向上を図り、手刷りの版画なども手掛けました。資料館ですは当時の素朴な人形を展示しています。
 農民美術運動が起こってから100年近く経ってしまっています。当時の農民美術組合や生産品の調査や研究をされている方からの貴重な情報をお待ちしています。少ない資料や情報を共有しながら農民美術運動の実態を明らかにして「足跡を残してゆく」という気の遠くなるような課題に挑戦中です。同好の方の情報共有をお願いします。


                あんこ人形 それは大島の宝です


人形作って60年
(父の仕事
あんこ人形
創始者(重丸)
彫刻家木村五郎が
技法を伝授
農民美術の
世界
あんこ人形彫刻体験  あんこ猫が
お出迎え 

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平成28(2016)年ふるさと木彫り民芸展に「あんこ人形」出品 
 
 
 
 伊豆大島農民美術講習会の足跡(講師は木村五郎)

第1回 昭和4年1月11日から1月17日 大島農民美術生産組合員18名参加 大島農会の招き
第2回 昭和4年5月8日から5月18日 東京都大島支庁主催
第3回 昭和5年3月(日時不明) 大島農民美術生産組合主催
 農民美術運動の概略

  農民美術運動は、画家で版画家の山本鼎が渡仏の帰路モスクワで見た農民が作った手工芸品をヒントに、大正7年「冬の農閑期を利用した農民が生み出す工芸品作り」を提唱して長野県上田から始まった。上田に日本農民美術研究所が設立され、農民への講習会は全国へ広がり、その地方の名物や風俗が作品となった。
 趣味と実益を兼ねた産業の成立を目指し、最盛期には全国で80数カ所の農民美術生産組合が組織され製作がおこなわれたが、戦争や経済不況のために運動は急速に沈静化し、設立から15年で日本農民美術研究所は解散することになった。
 この運動に賛同した倉田白羊・吉田白嶺・山崎省三・平塚運一・足立源一郎・恩地孝四郎など多くの画家や彫刻家たちが講習会に係わって、受講生の技術の向上に力を貸した。

 大島の資料館開設時(平成11年8月)から各地の農民美術生産組合で製作された「農民美術作品(山口氏所蔵」を当館で展示させていただきました。
 開館時から12年間借用した「全国の農民美術人形」は農民美術の文献構成のための写真撮影をすることになり一度返却いたしました。現在(平成24年6月)は私が集めた100点あまりの全国農民美術人形と伊豆大島で作られたあんこ人形、山口氏の人形資料を常設展示しております。 

 

「農民美術木片(こっぱ)人形―山口コレクション」 資料館案内より

 山口氏は愛好家が組織している日本郷土玩具の会・全国郷土玩具友の会・郷土玩具文化研究会・日本雪だるまの会に所属されています。平成初年頃から農民美術の木片人形を郷土玩具として捉え、収集と調査に取り組まれて来ました。当館に展示されている233点の作品はこの間に集められたものですが、農民美術発祥80周年の今日においては人形収集コレクションもなかなか容易なものではありません。
 山口氏は日本美術院同人木村五郎が各地の農民美術講習会指導者として活躍されたことを知り、木村五郎が指導に訪れた秋田大湯、長野川路、京都宇治、伊豆大島等の現地調査を数次にわたって行なってこられています。
 木村五郎の指導を受けた秋田大湯の浅井小魚や勝平得之の大湯人形、長野川路の中島繁男や古川舎人の伊那踊人形、京都宇治の桂甚一の茶摘人形、大島農民美術工人のあんこ人形や駱駝乗人形等はこうした取り組みの過程からの所産です。農民美術では各地方の歴史、奇談、人物、名所旧跡、民謡、習俗を題材とした郷土色豊かな人形が生み出されました。
 長野の山本鼎記念館などの公私の施設でも木片人形が展示されていますが、山本鼎の意匠による出雲人形、千葉県勝浦の井桁重太郎の大漁踊人形、長野川路の旧制一高生のデカンショ踊人形、会津の伴野凹平の白虎隊、茨城の新治人形、千葉の興津人形、草津の湯もみ人形、富山の雪国風俗人形、諏訪の大和作内のスケート人形、御殿場の富士見人形、岐阜白川の深山人形、千葉鴨川の肥村信一の旅人、埼玉吉見の篠田五郎の野帰り、鹿児島の薩摩人形、北海道のアイヌ風俗など、当館ならではの珍品を展示しております。(注・現在は作品返却、写真展示となります)
 山口氏は山本鼎の親農精神に傾倒され、木村五郎や勝平得之に代表される郷土玩具を愛した農民美術作者達の用と美の統一を目指した真摯な姿に共感を深められ「民衆の芸術」としての農民美術運動の究明に熱い思いを寄せられています。そして「日本農民美術運動史」の考察を進めておられます。
 愛すべき木片人形の御高覧を通して、作者の意欲と山口氏の情熱に触れていただけましたら主催者として幸甚の至りに存じます。

 
 平成15年7月、農民美術発祥地の主催者から依頼されて長野県上田創造館で行なわれた「郷土玩具展」に大島農民美術あんこ人形と木村五郎の資料を出品、資料館のパンフレットと一緒に小さなチラシを置いていただきました。

 伊豆大島農民美術「あんこ人形」について(配布チラシ)


 『大島は東京から洋上120キロも離れた小さな島です。昭和3年頃から「常春の島」として注目され観光客が大勢訪れるようになり、お土産として「あんこ人形」は珍重されました。
 この人形は、長野上田から山本鼎らが全国へ広めた「農民美術運動」の大島講習会で生れたものです。当時島の林業は盛んで、都会に燃料にする薪や木工品の材料を移出していたので彫刻の木材は豊富にあったのです。
 大島の講習会で講師を務めたのは日本美術院で石井鶴三らと真摯な彫刻研鑚をしていた木村五郎です。長野伊那(伊那踊り)、秋田大湯(雪ん子)、京都宇治(茶摘人形)の講習会で木彫技術を伝授、大島では昭和4年から3回の講習が行なわれ、18人近くの島人が彫刻にチャレンジしています。木村五郎はすっかり大島が気に入り島の婦人像を郷土風俗木彫作品に仕上げて日本美術院の展覧会で発表、小品ながら作品は異彩を放ちました。また、木彫の技法などの入門書も執筆、地方産業振興に大きな貢献をしました。
 あんこ人形の彫刻技法を伝授された島人たちは競って人形を作りました。しかし残念ながら全国規模の農民美術運動は15年間ほどで下火となってしまいました、大島では今日まで細々ながら製作が続けられています。今回展示している人形は60年彫り続けた職人のあんこ人形です。木村五郎のサンプルを手本に改良を重ね独自の人形にたどりついたものです。「いぬぎり材」の人形は彩色していますが、重量感のある「桜材」は無垢のまま経年とともに色つやが増してきます。
 私は木村五郎の技と農民美術の意義と島人の意気込みを後世に伝えたい、木彫職人であった父藤井重治の意志を継いであんこ彫刻修業をしながら資料館を開いています。
 農民美術発祥の地である上田の郷土玩具展に参加することで「木村五郎と大島の農民美術」に興味を持っていただければ幸いです。

         
木村五郎が指導した「農民美術講習会」で生み出された木彫作品
 
     ・京都宇治の茶摘人形        ・秋田大湯の風俗木彫4種      ・長野川路の「伊那踊り」
 
当館で展示している農美人形
 左からスケート・登山・養蚕風俗スキー人形
        昭和7年長野県出版「信州の農民美術」より
 
木村五郎が伊豆大島講習生の参考用に持参した「農民美術人形」 (現存)
当時の長野県小県郡神川村日本農美生産組合の作品です
昭和7年長野県出版「信州の農民美術」にまったく同じ人形が掲載されています。
これらの木片人形の生産組合年間生産量は2千個、ひとつ30銭で売られていたと書かれています
 

全国で作られた農民美術人形 
 

東北の農民美術人形 
 
 
農民美術に関する参考文献(当資料館収蔵)
 
木工・木彫・塗術  日本農民美術研究所出版部
山本鼎評伝  小崎軍司
夜明けの星  小崎軍司
山本鼎・倉田白羊
山本鼎の手紙 上田市教育委員会
鼎と槐多  窪島誠一郎
山本鼎物語  神田愛子
芸術自由教育をになった人びと 小久保明弘
伝統工芸の創生 北海道八雲の「熊彫」と徳川義親 大石勇
感情と教育 山本鼎の「痴人の夢」 北田耕也
芸術と福祉農民美術と民芸運動  藤田治彦
ロシアの農民美術  遠藤三恵子
上田自由大学と地域の青年たち  上田小県近現代史研究会ブックレット
あるくみるきく 信州上田・農民美術  近畿日本ツーリスト
発祥八十年記念誌 農民美術  長野県農民美術連合会
竹とんぼ30号 農民美術運動と東北の郷土玩具  山口畑一
上津野NO22 浅井小魚の鹿角の文化に果した役割  鹿角市文化財保護協会
宇治人形 知られざる茶の木人形の世界 田中正流 花園大学
木彫りに生きる  尾沢千春
勝平得之初期作品集 「農民美術」  勝平得之
土に生きる画家たち日本農民美術の系譜  福田新生
山本鼎の日本農民美術運動  山口真理・三橋俊雄・宮崎清
転向期の農民美術 金井正選集
農美運動と民芸運動  宮川泰夫
八雲の木彫熊 八雲町郷土資料館
木片人形 いまも生きる信州の農民美術  千葉安明
農民美術 国民新聞記事文庫昭和2年
民間工芸運動論の研究 都築邦春
山本鼎農民美術の蹉跌  小林未央子
栃木県における農民美術運動の展開  谷田部芳仁
民芸と農民美術 農民美術と民芸運動  柳宗悦
農民美術について  石井鶴三
信州の農民美術(昭和7年)
山本鼎関係資料目録  上田市山本鼎記念館
長野県農民美術連合会略史  アライ工芸

新聞記事
 農美巡礼日記 昭和5年
 

農民美術運動全般の資料

本邦農民美術運動の回顧と展望 渡邊進 帝国農会報 昭和2年10月号
黎明期の農民美術  昭和3年
農村及農業の工業化  昭和5年
農村の副業  昭和5年
林業年鑑  大正11年
アトリエ美術講座  昭和10年
岩波世界文学  昭和7年から
応用と実際明日の手工芸  昭和7年
潤葉樹材の利用  昭和5年から
潤葉樹材の利用調査書  昭和4年から
工芸美術を語る  昭和5年
今日の農村問題  昭和7年
産業組合宣伝叢書  昭和2年
児童百科辞典  昭和11年
農村副業問題  大正15年
羊ホームスパン  9年
美 を味わう心  1922年
文化は郷土なり  18年
山梨県山林会三十年史  1936年
林業講習成績概況  12年
世界巨人叢書
水を流るる永遠の愛  大正14年

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